"板"と"眼" - 二胡弦堂

 




 西洋音楽の場合、1つの小節がどのような音価で構成されているかを示すために、3/4、12/8などの表記があり、これは4分音符が3つ、8分音符が12つという意味があります。中国にも同じような表記がありますが、板 bǎnと眼 yǎnを使って拍数のみ示します。現代では数字譜のためあまり使っていませんが、一部残っているので簡単なものですし一応理解しておく必要があります。

 多いのは「一板三眼」で、強拍が1拍、弱拍が3拍、つまり計4拍、西洋式では4/4です。中国の古い楽譜は上の写真のようで、これは我々がよく知っている作品の作曲者自筆譜らしいですが、漢字を縦に書いている「工尺譜」というもので書かれています。単に漢字を並べただけでは音の長さがわかりません。そこで丸バツが打ってあります。冒頭は×、点(○)、無しを繰り返しています。×が板、点が眼です。 一板一眼、2/4になります。4拍は×●○●となります。現代の譜の方がはるかに見やすいので、こういう表記法が無くなっていったのは理解できます。

 速度に関しては、速い曲は「快板 kuài bǎn」、ゆっくりの曲は「慢板 màn bǎn」と言います。

 非常に速い曲は「流水板 liú shuǐ bǎn」或いは単に流水と言います。有板無眼となり、1拍がすべて強拍になります。無板無眼を「散板 sàn bǎn」と言い、速度も拍の置き方も何も決まりなし、自由に演奏するソロの部分です。

 ほとんど見かけることのない、清末から民国あたりで稀にある「西板」というものがあります。曲名で単に西板もあるし、・・西板というものもあります。これは初心者用の曲を示しています。どうしてなのか、その由来がわからないのですが推測は可能です。西はもともと栖で、鳥の巣のこと、古代は発音が同じ、象形文字では鳥のヒナでした。西というと夕日ですが、その時間帯に鳥が巣に戻るところから、方角を指すようになりました。西はヒナを連想させるのかもしれません。不思議な感覚です。

 西には西洋という概念もあります。元明代では南シナ海より西側沿岸諸国、東南アジアからインドの方だったようです。明末以降は大西洋両岸、つまり欧米を指すようになりました。これには、劣ったものという印象が多少なりとも含まれていたと推測できます。十分理解できていないものを劣っていると見做すのは国家運営ではかなり危険なことです。物を買いに来るばかりの西洋人、売るものがなく買うばかりなので銀がなくなってアヘンを売った、それで戦争になったら強かった、当時の中国人から見ると謎だったのではないかと思います。初心者用の曲? 侮らない方がいいのでしょうか。いやいや、全然心配ないでしょう。