基礎練習はどれぐらい重要でしょうか - 二胡弦堂

 


座布団と帽子  「基礎練習」というとまず思い当たるのが、劉天華の47の練習曲集の第一番です。開放弦だけで延ばす音ばかりです。この曲やこれを少しアレンジしたような曲は入門書には最初に入っていると思います。確認程度に軽く済ませ、次に進んでいきます。

 しかしこれを"軽く済ませるのはとんでもない"と考える人もいます。第一番に揉弦を加えたり、楽譜の指定とは異なってもっと長い音を出したり、いろいろ使います。とりわけ重要なのは、長い音を乱れることなく一定に出す練習です。とてもとても重要なので、これを半年とか1年もやり続け、そうでないと次には進まない、つまり教室に入ったらまずはこれしかやらないというところがあります。

 色んな考え方ややり方があるし、どんな方法を選択するかは自由ですが、この点でまずはっきり理解しておかないといけないことは「基礎と入門は意味が違う」ということです。入門や初級は初心者がやりますが、基礎は主にプロかそれを目指す人もやります。基礎練習はプロになるためにやるだけでなく、プロになってからもやるものです。やるのはどちらも第一番だったりしますが、取り組み方や意味合いが異なります。

 京胡を演奏する京劇の専門家は、劉天華の第一番練習曲のようなものを毎日1時間やるといわれています。音を延ばすだけです。これを専門家が毎日1時間もやっています。二胡をやる方の中にはブラスバンドの経験が有る方もおられると思いますが、これも長い音を一定に延々と吹かす練習をやります。一定で乱れてはいけないという規定の下に行います。何でこういうことをやるかというと、これだけ音をコントロールできたら安定感がぜんぜん違うのです。やっている学校とそうでないところはコンクール本番の演奏を聞いたらすぐにわかると言われている程です。中高生ですが、全国大会に出るような学校のレギュラーメンバーであれば、プロの楽団からオファーが来るような人材もいます。そういう人たちがこういう延ばす音の練習をします。

 とても重要な練習なので初心者はまずこれからしっかりやるべきでしょうか。何もできないのに先に安定感だけ十分身に付けるのですか。そもそも「これができたら次に行く」という概念自体がこの練習にはない筈です。なぜなら、音の安定感の問題はプロでも取り組むぐらいの難度だから彼らでさえ延々何年何十年もやっているものなのに、初心者が安定感に成果を期待されて徹底的にやらされるのは地獄でしょうね。本人がやりたい場合はしょうがないですが、中国ではそういう訓練はやっていません。半年で一級をクリアするのが一般的な進歩なので、それぐらいでだいたいD調とG調までは拉けるのが普通です。

 延ばす練習は、有る程度拉けるようになったが今一つ伸び悩んでいるという状態で再度今度はしっかり取り組むか、そうなる前に始めから少しの時間を割り当てる習慣で地道にやるものです。1時間はやり過ぎか、いささか誇張と思いますが、練習の最初の数分を当てて、チェックするぐらいは誰でもやってもいいかもしれません。この練習が非常に有益なのは間違いありません。


 技術の向上のために努力するのも何が必要かは人それぞれで、練習、楽器の調整などがありますが、運動能力というのも考えてみたいことです。音楽家は運動神経が良くないといけない、というのは何百年も前から言われているようですが、その一方で運動が全然ダメなのに巨匠になる人もいます。ですから難しく考えず、体が動いたらそれで良いぐらいに考えたいところです。年配の方などは、普通に体が動くというのもハードルが高かったりします。体が動かないと頭も退化します。それでいろいろとダメダメになっていき、あまり自信がないという方もおられるかもしれません。かといって鍛えるのも余計に体を壊します。それで音楽家用の運動を教えるいろんな本が売っています。ストレッチをしてから演奏した方がしっかりできるからです。アプリであれば無料のものもあります。Nike Training Clubなどがあります。これは本来は音楽家ではなくアスリートが使います。とにかく体に変な負担を掛けない、鍛えるというよりも筋を伸ばすストレッチが主です。上級メニューは激しいですが、アスリートが訓練を始める最初からそういうことはせず、ストレッチから入りますのでそういうものが結構あります。ランニング前にやる軽いメニューもあります。最近は、在宅者用の気分を開放させる、子供とできる、ヨガなどのメニューもあります。最新スポーツ医学に基づいて専門家が監修していますので、楽に体の可動域をスムーズにできます。これは本来怪我をしないためのものですが、音楽家にとっては別の意味を持ちます。演奏で体が動くようになります。ただ練習だけをするよりも、運動を基礎練習に取り入れる方が成果が出やすいのではないかと思います。