内弦と外弦、同じ音程の音がありますが、どちらを拉けばいいのかわかりません - 二胡弦堂

 


 たいていの場合、特に練習曲の場合は楽譜に指番号が0と漢数字の一から四の間で指定されています。0は開放弦(空弦)、一は人差し指になります。

 練習曲は指番号の指定を守らないと目的とする練習になりませんから、指定通りですと演奏が難しくなることが多いとしても、これは守る必要があります。

 外空弦と内弦4指のどちらかで演奏できる場合、中国音楽ではほとんどの状況で注記がない限り外弦を使います。

 楽曲の場合は表現重視で決まっています。例えば、劉天華の「病中吟」の5~14小節に幾つか見られる "3"は、いずれも外弦で演奏します。しかしこれは内弦の方が演奏しやすいです。外弦が指定されているせいで、左手は上下に激しく動くことになり、跳躍が多く難しくなります。最初の1,2小節は内弦で演奏されるので、雰囲気に落ち着きがあります。それゆえそれ以降の心の揺れ動きを表現する3の跳躍が強調されることになり、楽曲が目的とする表現に貢献しています。

 音階の第三の音、ハ長調だったら「ミ」の音は、作曲家にとって最も意味深長な音で、この音の扱い方を"知る"ことは生涯の目標だと言う作曲家さえいます。音一つ一つを分析する研究は古代からありますが、主音の「ド」は最も機能が強く、音程が五度高い属音「ソ」と五度低い音程の「ファ」が軸になって他の音に影響を及ぼし、上主音「レ」はドが "。" だとしたら "、" になり導音「シ」は非常に機能が弱く強いドに吸い寄せられて次に出す音がドになる・・となっていきますが、中音「ミ」は捉えがたい神秘的な音であるゆえ、多くの才能のある作曲家たちはこの音に並々ならぬ関心を払ってきました。音階の中の各音にはこのような個性と力関係が存在します。(「ミ」に恋をして作曲家になった、などと気持ちの悪いことを言う人も過去に直に見たことがあります。一応注記:この人は変な人ではありません。代々作曲家の家系の方なので親の跡を継いだわけではなく自分の意志でやっているということを言いたかったと思われます)。

 外弦の第二把位で演奏できる箇所を内弦の第三把位に移して演奏する場合もあります。この場合は大抵注記があります。外弦は明瞭な音ですが、内弦のそれは深い音がします。バイオリンの場合は弦が4本ありますが、かなり粒を揃えていますので隣の弦に渡っていっても二胡程の違いが出ることはありません。最近の車のトランスミッションはオートマチック、通称「オートマ」になっていますから、以前のマニュアルを知らない方も増えてきていると思うので少し説明しますと、車はタイヤにギア(歯車)を繋いで動かしています。最初はゆっくりだがトルク(力)を必要とするギアで動かし始めます。しかしスピードがある程度上がってくるとこのギアではしんどく、スピードが出ない、燃費も悪い、騒音も大きくなるので違うギアにチェンジします。今では自動ですが、以前はドライバーが切り替えていたので運転は忙しかったのです。この段階が1~4まで、少し高級車になると5まであって、それ以外にバックもあります。普通に大通りを走る場合は4(トップ)か5(ハイトップ)まで入れるので信号で止まる度に1(ロー)に戻して2(セカンド)、3(サード)と順に上げる作業を繰り返します。坂を登る時はサードかセカンドに戻して力を得ます。これはバイオリンの弦に似ています。音が高くなってくるとギアチェンジよろしくGからDAEと換弦します。上手い運転手はギアチェンジがスムーズですがバイオリンの演奏も同様に上手い奏者は換弦したことに気がつかないほどスムーズです。しかしある旋律の一定感を失わないために極力換弦しない指定が曲の中で部分的にある場合があります。その究極で最も有名なものはバッハの組曲第3番のエア、世にいう「G線上のアリア」で、これはG弦、車で言うとギアをローに入れたままで全部通します。こうして不要な躍動感を持たせないことで静謐な表現を得ています。そして一筆書きのような滑らかさも得ています。これ以外の曲では普通にすべての弦を使っていきますが、それでも坂にさしかかったらサードに入れるがごとく、意図的に低い音の弦の高域部を使うこともあります。二胡も同様ですが、バイオリンに比べると落差が大きいのです。二胡はギアではないのでしょう。二胡の2つの弦はあたかも女声と男声のような違いがあります。違った個性の弦が1つずつ付いています。それで東洋拉弦楽器の曲というのは独特なわけです。デュエット的対比を善用するし、それを活かしたような曲作りにもなっているのです。換弦は二胡の醍醐味の1つです。この理解は内外弦のどちらを使うべきか、難しい状況で何らかの判断を下す時に役立ちます。

 曲によっては外弦と内弦の指定がなく、明確に決まっておらず何とも決めがたいという場合もあります。どちらを使うかは、ご自身が目指される表現によって決まってくると思います。それは使う楽器の個性の影響を受けることもあります。