音楽理論 - 二胡弦堂

 

音楽理論 西洋と中国の音楽理論について

 音楽理論は難しい学科で、音大でも最も不人気な科目だと言われます。理性と感性の境目がない思考法が求められるからです。脳には右脳と左脳があります。20代までは生物学的に繋がっていません。世の中でよく言われるのは、年寄りは頭が硬いというのがあります。しかし生物学的には逆で、中年女性が口うるさいのは脳が明晰になるからだそうです。周囲が何で無能なのかわからない、何でこれぐらいのことがわからないのかと、うるさくなるらしいのです。男性はまだ落ち着いていると言われます。人は老化して衰えますが、脳にはそれがない、しかし努力不足は衰えます。

 では、努力とはどういうものなのでしょうか。30代に達してようやく脳が一体化する、しかしこの時に蓄積がなければ、繋がる素材がありません。そのため、20代までは知識を多く吸収せねばなりません。早くから音楽理論をやるのはどうなのでしょうか。20代でぜんぜん問題なし、十分に身に付きます。そして30代になった時に、理論と感性の境目がなくなります。より強固になります。

 古代ギリシャでは思考のバランスを子供に身に付けさせたい親は音楽を履修させていました。柔軟な思考にはこれ、と決まっていました。必修ではなく選択だったようです。過去の巨匠たちで、現代だと結構問題になっている自閉症とか対人障害というか、そういった問題で小学も行けてない人が割といるのですが、彼らの場合、大体が音楽理論は家庭教師から学んでいます。それ以外に対位法ぐらい、後ピアノとか、それも結局ろくに弾けずに大きくなったりとか、後は国語数学、それぐらいしか教育は受けていません。彼らの教育の履歴はほとんどないのですが必ず書かれるのは「音楽理論は誰々から学んだ」これだけはあるのです。ラッパは吹けるだけのマイルス・デイビスがニューヨークに来て、セロニアス・モンクに理論を学びました。他もいろいろ学んだとは思うのですが、それは重要ではないので言わないという、それぐらいなのです。一方、対位法に関しては現代の先生方にも必須ではないという方が少なくありません。音楽理論がわからないのは音楽家とは言えない、それぐらい重要な基礎です。

 音楽は感性からでなければ導き出せない結論もあります。もちろん感性だけでも創作はできるのでしょうけれども、その一方で理論からでなければ導き得ない結論もあります。理論だけでも創作はできるでしょう。理論と感性とは随分違うものです。人間には得手不得手があります。右脳と左脳は役割が違うので、どちらもかなり強いというのは難しいとされます。どちらか片方に寄った方が簡単だからです。だけど片方のみしか発達していなければそれはバランスの取れた人間とは言えません。周囲に、感情でしか行動できない人間、或いは頭の硬い、理論でしか物事を把握できない人間というものが図らずも身近に存在したという経験をされたことのある方は少なくないと思いますが、そこまで極端でなくても人間というのは何がしらバランスが欠けているものです。非常に平衡が取れているというのは、一見水のように普通に見えますが、それは大変なことです。それを学問的観点で要求するというのが音楽理論なのです。本稿で解決できるのかわかりませんが、ともかくやってみようということで設置いたしました。本欄は中国音楽の学習のために設置されています。その過程で頻繁に理論と感性が同時に一定水準要求されるということがあります。それでどうしてもこれを最初にやらねばならないだろうということなのです。

 本稿は中国拉弦楽器専門です。それで音楽理論を扱うにしても中国の理論だけ扱えばそれで良いと思います。しかし、元々中国にはこの種の理論は存在せず、もちろん理論はあるのですが解明されてきておらず、また整理されたメソッドもない状態で近代に至り、西洋音楽の専門教育を受けた中国人が西洋との比較でようやく中国音楽理論を説明できるようになったという経緯があります(しかし彼らの意見では一番最初にこれを手がけたのは林謙三という日本人で、林の著作を読んで自国の理論を理解したということです)。中国音楽理論、中国の和声学はことごとく西洋和声理論との比較になります。そこから抜け出して説明できないかと思うのですが難しいのです。西洋は複雑です。だけど複雑なだけに穴がありません。だから説明や理論も確立しやすいのです。そこから抜き出す形で「東洋はこうである」と言った方がストレートにわかりやすいのです。しかし東洋の和声学は学ぶ必要があるとは思えません。西洋は7声でそこを東洋の5声に適用するのは無理があり、どうしてこういうことをやらねばならないのかわかりません。ですから皆さんの中にも中国の民族交響楽なるものを聴いて違和感を抱かれた方もおられるでしょう。ですからこういうものではなくて和声学は西洋の方だけ扱うことにします。一方、東洋はその後に5音階の楽典をやります。つまり西洋の方は楽典をここではやらず和声、東洋は楽典をやって和声はやらない、これでいいのではないかと思います。なぜならこの2つが学びにくい、それにも関わらず重要だからです。

 和声学の場合、大抵早い段階で、禁則というものが提示されます。音符の並べ方でやってはいけない禁じ手なのですが、実際のところ、作曲においてやってはいけないことはありません。自分の作品なので全て自己責任です。和声学において禁止されている事柄で実際の作曲で使われているものはあるし、もちろんそこに問題はありません。しかし何でも許せば和声学の学習にならないので古典的な響きを求める拘束条件をあらかじめ決めています。実際の作曲では意図があれば濁った音でも使いますが、和声学ではとにかく美しい響きを追求します。かなりがんじがらめですが、学習においては自由があり過ぎるより明確なものが多い方がわかりやすいものです。美しいハーモニーにおいて許されないとされている禁則がどうして存在するのかをよくわかった上で乗り越えるべきであって、何もわかっていないのに自由だけを求めるなら恥をかきます。これはどんなものについても言えると思います。料理なんてものは適当に調味料をぶち込めばできるのではないでしょうか。できます。できますが、基本をわかっている人とは自ずと結果は異なります。自由でいて決してそうではない、そもそも自由というものに対する概念から考え直す必要がありますが、基本がわかっている方が一見不自由に見えてそうではありません。常識がわかっているからこそ新たな創造が拓けます。もっと自由になれます。そう考えると和声学の禁則とは何なのか、禁則が自由をもたらすのか。まさにそうなのです。赤でもない、青でもない、分類し難い梅みたいなものがこうやって色々出てくることに対する精神的な備えが必要です。全ては仮定として柔らかく受け止める必要があります。どういうことでしょうか。テレビで辻って所から来た先生が「塩1つまみ」と言いますと、さて、1つまみとはどれぐらいなのだろうと思います。適当なのでしょうか。まあ適当でもいいのでしょう。しかし入ってくる素材は天然のものですから塩加減はその都度素材に合わせたいと思うことはあるし、提供する料理の前後の関係で要求される塩味については明確なイメージがあるかもしれませんが、それでも塩は1つまみです。多分音楽より料理の方が難しいですが、塩1gと言われないと安心できない、わかった気にならないというのは、それはつまり何もわかってはいないということなのだと、そういうことは音楽でも結構あると思います。人間何でも知っている訳ではありませんから、別に何かよく知らないことがあってもそれが問題にはなりませんし、そうだからこそ日々学習なのですが、知らないことに気がついていないのは致命的な問題です。

 尚、本稿では西洋の楽典はやりませんから、楽典を学んだがわからなかったという方は完全に諦めて下さい。二胡は数字譜なので五線譜がわからない人でも演奏できます。五線譜がこれ即ち楽典なのですが、この五線譜をまず拒否する方もおられると思いますが、こういう方は(まだ何も始まってはいませんが)静かに終戦をお迎え下さい。メンタル的に無理、本人ができないと決めているので周囲はどうしようもありません。そういう方にとって本欄の記載は玉音放送のごときものでしょう。楽典は小学低学年がやるレベル、10分もあれば終わる程度なので、それがわからないと先はないと思います。そういう人がここまで読んでいるとは思えないので好き放題言わせていただいていますが。

 それから西洋の和声は属七の和音までやることにします。そこまで行けばやはりネット上の情報でそれ以上のこともわかるだろうと思うし、そうしなくても十分だからです。和声の基礎部分が難しいのではないかということです。確かに書いてあるものはいっぱいあるのですが、整理されすぎていてかえってよくわからない、わかってもわかった気にならないことが多いのです。それで実際にどうやって音を組むのかというところを重視したいと思います。つまり、ある旋律があったらそれに和声をつけたい、違う楽器を追加したいということは現実的にあります。それで和声学をやって書いてあることはわかるものの、実際どうやったらいいかわからないということが多いと思います。そこを埋めようということです。和声学で使う譜の場合は硬いので、同じやり方のままで何でもはやらないでしょうけれども、しかし基本的な道理はわかってないと何もできかねると思います。理論を習得していれば、プロの譜を見ても意味はわかると思います。和声学に取り組む姿勢としては、数学、と思ってしまった方が良いです。音楽だから感性かな?と思われると思いますが、数学という先入観のようなものを持ってからの方がわかりやすいでしょう。



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