スチール弦は種類が豊富で、二胡の場合は特に多くて個性豊かなので、弦を楽しむというのも1つの醍醐味です。古風な音がする風流な弦があれば、現代的に洗練された弦もあり、まさに百花繚乱です。しかし弦をいろいろ買って試すよりも規準となる一種で落ち着きたいということもあります。その場合はまずこれを使うことになると思います。
パッケージには説明が幾つか書いてあります。右下は「二胡演奏家のための特別な設計」、左下、青地白抜は「専門家の皆さんへ:優れた音色を保つことを保証できる期間は2,3ヶ月です」。
どの弦もこれぐらいの使用期間と思いますが、FangFang弦は驚くほど急に3ヶ月ぐらいで衰えますので注意が必要です。これは専門家への注意であって、民間の演奏家は弦が衰えてもそのまま楽しんでいるので、2,3ヶ月で使えないという意味ではありません。
だけど交換はしたくなるでしょう。
この二胡弦はドイツの技術を導入して北京で家内工業的に少人数生産していますが、元々は中国人の感性によって最高の弦を作るという研究から始まったものとされています。欧州には有力な弦メーカーが多いのでそういった会社が二胡用にも幾つか出していて結構なのですが、中華の伝統という観点から見た場合に音色の感性に違和感があります。しかし欧州の技術は高度です。そこで互いの良いところを活かそうということです。その過程で数ランクの弦がリリースされ、このFangFangは一番安価な弦でした。上のランクの弦は指圧が強いプロの奏者用のものであって、非力な演奏者には扱いずらいものなのですが、それでも音楽院でFangFangが使われるようになっていったのは音色が良いからだと思います。耐久性を考えるとFangFangが一番コスパが悪そうですが、それでも使われています。
この評価はFangFangを作っているメーカー内だけでの評価ですから、FangFangと他メーカーの弦を比較したらどうなのかということも重要です。中国文化という観点から考えた時に最も優れているのはこのFangFangではありません。中国には大きな民族楽器廠が、北京、上海、蘇州にありますが、その3家が出している、これらも安価ですが、文化的観点からはこれらの弦を以て最高と評価されています。星海牌とか敦煌牌といったようなものです。時々、馬乾元がパッケージにも入っていない素性不明の換え弦(実際には虎丘牌)を付けていて、密かに捨てている方もおられると思いますがとんでもない話です。これこそまさに蘇州琴音の具現です。わかる人にはわかる味があります。"中国の音"というのはこういう弦の味わいを知らないと体験できないと思います。一方で、価格も高価で音色もギラギラしたゴールド大好き中国という別の一面を反映した弦もあって、これはこれでおもしろいし、どういうわけかこういうのは欧州で作っていたりしますので西洋音楽をやるのだったら良いものですが、作りも確かで、中国伝統弦の、素人は相手にしない風の突き放したようなところもないことから安心して使えます。
このようにいろんな個性や主張がありますが、こうした様々な伝統の中から中庸の美を湛えたものとして出てきたFangFangは、二胡弦の最終形の1つと言えるのかもしれません。いずれの要素も過不足なく満たしていますので、この弦を見たら「普通が一番」と言いたくなります。結局、ご飯とみそ汁に戻るようなところがあります。FangFangが最高だからお勧めしているわけではないのですが、バランスが良い、普遍的な美がある、という意味で長く付き合える弦です。
高品質な弦であれば、外弦が疲れてきたら両方を交換しますが、楽団で常用されるこのタイプの弦は外弦だけでも交換されます。
市場に最も出回っているのは、普及タイプの鉄弦で一般に「星海牌の弦」というとこの弦になります。それにクロムを混ぜたものです。純粋に二胡の本来の音を味わいたい、西洋音楽に気を遣う必要はないという方向ではFangFangよりこちらの方が良さそうです。
クロムを使用している弦はかつてよりプロの楽団に納入されてきましたが、以前は安価でした。中胡となると出荷数が少ないので、だいぶん高くなりましたが、やはり音は非常に良いですね。