雑音を抑えるには、どうしたらいいですか? - 二胡弦堂

 


二胡の琴托の鉛が流し込まれていた穴  控制綿は弦に触れる程度に装着し、きつく押し込まない方がいいようです。しかしそれぞれの楽器でコンディションが違いますし、綿の素材もいろいろありますから少しずつ試しながら量を調整します。市販のものは大き目なのでカットする必要があるかもしれません。切れ端も置いておけば、別の材料の綿に巻いて使うなど用途があります。小さ過ぎる感じのものでも高胡や古楽器などで使えます。

 雑音が出る一般的に言われている原理は、弦の共鳴と楽器の共鳴がずれるから、ある音程で(楽器によって個体差がある)狼声と呼ばれるかすれた音が出るというものです。音が打ち消しあったり、異音を発するようになります。そのため控制綿を使い狼音を消します。しかしそれでもまだ異音が出ることがあります。これはむしろ鳴りの良い楽器によく見受けられ、胴共鳴させる楽器の宿命ともいえるトラブルだとされています。温度や湿度の影響を受けることもあります。この場合は一旦楽器を分解して組み立て直します。まずドライバーで底のネジを外して琴托も外します。そして棹から琴胴を抜きます。これだけです。この時、棹が抜けにくい場合は楽器を傷つけないように何かで叩いて振動を与えます。湿度の高い時は避けます。分解が硬くて大変だったのに組み立ては簡単だったという場合が多いです。木材が伸縮を繰り返して接触面の収まりが悪くなり引っ掛かりがあるためですので、変な接触を開放すれば再度収めるのはスムーズに入ります。この問題はかなり多く見られます。もし簡単に分解できる場合は別の問題を探す必要があります。

 似た問題ですが、調弦して楽器を拉き始めた時はきちんと音が出るのですが、少ししたら特に内弦の音が出にくいといった異変に見舞われることがあります。特に弦が新しいと5分ぐらいでおかしくなることがあります。普通は駒を触ると皮の上を容易にスライドしますが、この場合硬くなって動かなくなっていたりします。駒が弦と皮の間で斜めになっていて引っ掛かりがある、接触がおかしくなっています。強引に動かすと駒を痛めるので丁寧に面倒を見ます。弦が少しずつ伸びてくるなどでズレが生じるものと思われます。演奏者によっては、調弦後にすぐに駒を揉むように動かし、千斤も触ってみたりと、作法のようにやる人はいます。そしてしばらくしてまたおかしくなったら繰り返して直すという具合です。しかしほとんどの場合、3回目はないと思います。屋外で演奏するなど強震する場合は自然に落ち着くようで、室内で弱く演奏しているとかなりこの問題は出やすい傾向があるようです。

 楽器の価格が安い場合はどうでしょうか。安物だから雑音が出るということはないと思います。楽器の値段と雑音との関連性は基本的にないと言っていいでしょう。安価な楽器は、中国の老人が普通に使っていますので、皮が薄い点に注意する必要はあるものの、丁寧に使っているとびっくりするような美音を発するものもあり、彼らはそういうものを何十年も演奏し続ける傾向がありますから、古いけれど聞き惚れるような音を出すものは多数存在します。それでも音はやっぱり高級な楽器の方がいいでしょうね。安物はペラペラの音しか出ません。これで音が育つのかと思える程です。昔の楽器であれば安価なものでもそれなりに良かったのだと思います。古い楽器は当時高価なものでなかったとしても、現行のものとは材が全く違います。そういう楽器の美音を聞いて、現行品でも安い二胡を買って育てていこうというのは間違っていると思います。古楽器の多くは黄花梨を使用しており、これはインド紫檀より優れた材です。しかし現行の安価な材は品質管理がされていないということも意味しているので、稀にすごい良材が見つかることがあります。つまり材の品種自体が市場で価格が付かないので選別はやってられない、入ってきたものをそのまんま全部卸してしまうということです。大陸ではそういうものを執拗に探して楽器街をウロウロしている老人がいたりします。既に何か持っていてすぐには必要としていない、暇だったりするとこういうのも趣味として面白いようです。

二胡の琴托から外した鉛 弦が古くなっている可能性もあります。弦は普通、切れるよりへたる方が早いと思います。プロのように弦にかける圧力が強い人は、切れるまで使たりします。弦が古過ぎようが、なんだろうが、全く関係なしという人も多いです。これは古くなってきたことに気が付かないのではなく、解ってはいるが拘らないということです。全然普通に使えるのですが、しかしプロの場合は演奏会には気を遣って新調したりする人も多いです。衰えてきたのがわかっていて、これでいいと思っている場合は良いですが、よく分からなくて何で音が悪いのかと思われている場合は交換を試して理解すれば落ち着くと思います。

 また、2本の弦がねじれて交差しているという問題も結構あります。これは新しい弦を張った時のミスです。正常なものが自然に捻れることはなさそうです。この状態で調弦しますと、スチール弦でしたら切れる場合もあります。弦はそれぞれ独立しており、千斤部分で平行に並んでいる必要があります。上下して重なっているのは望ましくありません。

 弓の問題は、
どんな二胡弓を選んだらいいでしょうか?
二胡弓はどのように手入れをすればいいでしょうか?
も参照して下さい。

 それ以外の理由は、開放弦の雑音に触れたところでも説明しています。

二胡の琴托に銀を流し込んだ状態 琴托の中の見えない部分には鉛が流し込んであり、これが楽器の響きを作っています。この鉛と木材の間に気温や湿度の変化によって隙間ができて、これが異音を発する原因になっている場合があります。これは接着剤で止めるのが一般的かもしれません。小店では試しに1つ、一枚目の写真のようにこれを全部外し(外したものはその次の写真)ここへ銀を流し込む(3枚目の写真)という荒技を発注しました。元の鉛は60g以上あり、銀は50gですから少し足りなかったようですが問題はありません。音は上品で落ち着いた音になりますから、多めに銀注入が良かろうと思います。贅沢な話ですが。しかしこの注入過程で、周辺の木材を若干焼きつつ流れていきますから、あまりお勧めできるものではありません。職人さんはなるべく焼かない方向で努力してくれますし、木に噛みついた方が良かろうということで、結果的にはよかったようです。いぶし銀という言葉がありますが、まさにそういう傾向の音になります。金ですと輝かしい音になると思われますが、高価ですので現実的ではありません。三味線の場合は、竹の駒に、鉛、銀、金のどれかを埋め込むことがあるようです。この場合は少量ですので金を使えますが、二胡の場合はせいぜい銀だろうと思います。しかし一番良いのはおそらく何もない、或いは外したままです。

 演奏技術の問題はどうでしょう。まず教科書どおりですと、どうなっているのでしょうか。重要なのは、弦に噛みつく弓の圧力、弓のスピード、弓と弦の角度、これらの関連性だとされています。内弦の場合は指でしっかり圧を掛ける、外弦は力を抜き、竹をデンペンにしっかり付けると学ぶかもしれません。やってみると確かにこの基本は重要らしいということがわかってきます。しかし、弓のスピードがいつも一定以上ですと表現力が乏しくなりそうな気がしますし、プロが演奏しているDVDなど見ますと、弓が平行ではなく、上下に自由に動いているのも見ることがあります。だから、基本どおりでなくても、それなりにきれいに演奏できることもわかります。それで最初のころは、曲をとにかく基本通りにきっちり弾くことを目指し、慣れてくると自由に表情を付けてみるというのはいいかもしれません。基本通りが慣れていれば、そこからどの程度はみ出しても問題ないかわかるからです。楽器がきちんと調整されていれば許容範囲は広いかもしれません。扱いにくい楽器こそ面白かったりするので難しいところではありますが。若干、部分でざらついた音が出ても、曲のイメージには合っているかもしれません。

 技術は大切ですが、あまり考えて神経質になっては楽しめませんから、少なくとも道具の状態ぐらいはきちんとして、演奏に狂いが出てもだいたい問題ない程度に準備して楽しみたいものです。道具に頼ることに後ろめたさを感じる必要はないと思います。名人ほど、道具には詳しいものです。

 演奏技術の悩ましい問題ですが、そのある部分は、松脂の変更で何とかなることもあります。例えば、弦にかける圧力が足らないとします。それで雑音が出ているとします。そうしますと、もっと力を入れればいいことになります。それで雑音が消えたとします。しかし松脂を弦に噛みつきの良いものに交換すれば努力せずに解決します。これは極端な例かもしれませんが、楽器との相性もあると思います。それほど高価なものではないので、金銭で解決できるならそうする方がいいと思います。

 ここまでいろいろ考えましたが、これでも完全に消えない場合があります。それでも、年数が経てば、共鳴点も移り、問題がなくなってくるかもしれません。私の中国の老師は、とにかく強くバリバリ弾くよう勧めます。上記の改善的など細かいことは無視しています(ご本人は無視しているつもりはありませんが・・)。これもある程度道理があるようで、振動を与えるのは安定しやすいようです。新しい楽器は貼り合わせなどの部分が安定しておらず、響かせることによって落ち着いて来ると言われています。ともかく、この問題が出る楽器は共鳴が良いということなので、中国の老人らが楽器街に新しい楽器を物色しにきた時に、音が裏返りやすい楽器などを見てポテンシャルを評価するようなことを言ったりします。彼らに扱わせると、このようなものはすぐに落ち着くようです。またこの共鳴点のずらし方ですが、駒の材質を変更すると消える場合があります。工房によっても形や素材の入手場所などが異なりますから変わってきます。ショップに出向いて事情を説明し、いろいろな駒を試すことができれば解決できるかもしれませんが、国内でそういうところはほとんどないでしょう。ネットでは写真を見るだけですから、買ってみないとわからないと思います。駒はしばらくすると合わなくなったりもするのでたくさん持っていても困ることはありません。