空弦で異音が出ます - 二胡弦堂

 


 「空弦」とは、指で弦を押さえないで弓を擦る状態です。西洋では「解放弦」と言います。弦を押さえると異音は鳴らないのですが、放すと異音を発するトラブルに悩まされる場合について考えます。

 楽器には音域があります。この範囲の音程が出せるというものです。西洋の楽器では、すべての音域で音の粒が揃っていることが重視されます。どの音程でも均一に音が出るということです。低い音や高い音が出にくいということであれば演奏しにくくなりますし、表現しにくくなります。しかし高域低域が出にくい楽器というのは、よく使われる中域では美しく鳴ります。エネルギーが中央に寄っているからでしょう。そのため、名器よりも普及品の楽器の方が美しい音と思う人が多くなります。音を聴くという観点からはそうなります。ですが演奏する側になると感じ方が変わります。自分の表現したいものがどれだけ表現できるかが重要になります。想像していたもの以上の響きを感じさせる、これが名器です。必要な条件の1つが、すべての音域で音の粒が揃っていることになります。

 二胡においても、高域が出にくいとか、内弦が鳴らしにくいというのはストレスを感じさせます。これらは必要な要素ですが、しかし西洋楽器での音の粒という概念はありません。2本の弦は、男声女声のような対比があります。これを使い分けるのも1つの技術です。外弦空弦と内弦の第五音は同じ音程です。ですが表題のように空弦がビリつくので、これでは使えないと感じる人もいます。しかし中国音楽では注記がない限り空弦を使用します。このビビリ音を使用します。積極使用します。それが日本に渡って三味線の「さわり」になったのかもしれません。千斤に相当する部分は乳袋(ちぶくろ)と言いますが、この下にさわり山という膨らみを設け、空弦を弾いた時にさわり山に当ったり離れたりしてビビリ音が発生するようにしています。その接触具合がデリケートなので、ネジで調整できるようになっています。ここには材料として高級なものでは金や銀が使われます。ネジを回して程よいビビリ音が出るようにします。尺八では時には「ムライキ」という技法で擦れた音を出します。しかしこのような音は西洋音楽には合いません。東洋音楽独特です。二泉胡の場合は二胡よりも大きくなり弦も太くなりますから、空弦は弓の方向で音色が変わることがあります。弱音で鳴らすと全く違う音になるぐらいです。内弦も加えると3種の音色が使えることになります。二泉映月はこの3種を使い分けます。

 ビビリ音は、とりあえず出れば良しというものではないと思います。美しいビビリ音というものがあるのかもしれません。千斤が古ければ交換します。これで良くなることがありますが、その場合は千斤の高さが問題だった可能性もあります。適正な高さでないと雑音が発生します。これは楽器によってそれぞれです。この時に自分の考えで「これぐらいが標準に違いない」という先入観を持たないことです。絹弦の場合はスチール弦よりも斜度が大きくなります。二胡の年式によっても適当な具合の斜度が違うことがあります。

 下の写真は弦を弦軸に巻いている例です。弦軸の長さは合理的な理由で決まっているということを前提に考えると弦はなるべく高いところから千斤に渡すようにするべきという基本概念は成立するのかもしれません。ただそれだけの理由で長さと太さは決まっていないので、それは一つの概念に過ぎませんがその意識は必要です。高いところから張ると外空弦でビビリ音を発しやすくなります。まずここで調整できそうです。

 弦の巻き方でも音はずいぶん変わります。奇麗に螺旋形に巻いて変な響きが出ないように纏める必要があります。それでも不足とばかりにここに小さい絆創膏を貼って振動を抑える人さえいます。しかし音に躍動感を失う傾向はありますので、それよりも巻き方に注意を払う方がベターです。千斤から渡された2本の弦の平行度も重要です。写真の例ではどちらの弦も弦軸の高いところから渡していますので両弦の斜度が違います。これを両方合わせると、つまり外弦の渡す位置を下げると、音は穏やかになります。非常に正確で几帳面な印象の音になります。これを上か下にずらすと違う変化が生じます。ずらしを大きくするのは攻撃的な印象です。規準となる内弦の位置も動かすことで多彩なチューニングが可能になります。内弦は短いように見えます。絹弦の場合は弦が切れた時に弦軸から繰り出して使用することが多々あるのでこのようになることがありますが、これも良くないことがあります。しかし良くない前提で小事に構わず使うことが多いです。勿体無いので。有る程度余裕の長さがあって(音を確実に伝達するため)しっかり巻けるようにした方がいいし、その方が調弦も狂いが出にくくなります。弦はしっかりと弦軸に噛付いていないといけないということです。内弦と外弦が外弦の弦軸付近で接触することがあります。これを解消して触れないようにするのも効果があります。写真では隙間をあけて接触を防いでいます。

 弦軸と棹は音の響きに大きな影響があります。それゆえ沖縄三線は棹を最重要視し、良いものはこの部分だけで高額の取引がなされています。またカラクイと呼ばれる弦軸には最高材の黒檀をおごります。棹の太さによって共鳴が違い、細い棹は高い音で響きます。基本的には二胡も同様です。これらの部分に弦を繋ぐというのは、非常に繊細で神経質な行為だといえます。音をきちんと伝達し、適切に響かせなければならないからです。丁寧に接触されていないと、濁りが出るのは当然なのかもしれません。電気が導通するような・・そういう感覚に近いと思います。

 最初に弦軸に弦を巻くときは穴に通します。この場合も中で共鳴を防ぐ意味で、外弦のように細いものは2重に通すとか、変な震えが出ないようにします。弦の弛みも出ないように気を付けて下さい。