蒋風之伝承譜の前書 - 二胡弦堂

 


 蒋風之によるこの本が出版されたのは89年で、死後3年が経過した頃でした。出版の準備は大分前から進められていたようで蒋風之自身によって前書きが書かれたのは84年でした。この前書きがかなり有意義なのでここに翻訳致しました。

        前言
 1929年、私は幸運にも国楽大師劉天華先生に学ぶことができ、先生の人格や慎み深い学習姿勢がわたしたちの国の民族音楽の発展に寄与したこと、二胡演奏芸術に対するたゆみなき前進、思索、革新の精神を賜って、私はとても大きな影響を受けました。先生が亡くなられてから、私は先生の意思を継承する意思を固め、かれこれ幾つかの学校で二胡を教授し、同時に二胡を改良するための仕事にも携わって、ついに50年の月日が過ぎました。私は年の暮れに、自身の二胡演奏芸術の経験と体得した事柄を慎んでここにまとめます。
 50年に亘る教授と演奏の経験から、私は二胡を演奏することが技術的に正しい方法が必要であるだけでなく、同時に芸術表現をも重視しなければならない、この2つが不可欠であることを深く感じます。私はこれまで一部の学生が技術的に正しい演奏方法を理解していなかったことで最終的に別の道に進まざるを得なかったこと、また別の学生がただ単純な技巧訓練だけを行い、芸術表現を省みず、ついには匠になりえなかったことを見てきました。これらの教訓によって、私は残りの半生で、この事柄に係る幾つかの問題を特に重視してまじめに追求するようになりました。
 この本の第一部分では正確な演奏方法を解説し、同時に幾つかの方法で分析を行い、技術の至らない原因がどこにあるのかを説明しました。
 第二部分では17首の二胡曲を紹介しました。楽曲の内容と様式から始まって、私自身の理解を詳細に解き明かし芸術的な処理を会得できるようにしました。これらを同じ志の人々の参考のために提供します。
 第三部分は私が長年使ってきた演奏、教授のための譜面です。
 私はこの本を二胡演奏、教授事業のために捧げます。読者の助けになることを願っています。
                          蒋風之
                          1984年秋 中国音楽学院にて

 蒋風之はこの本を晩年に準備し、生前には出版しませんでした。思うにおそらく自分の生前には受けれられないと思ったのだろうと思います。しかしこの本はいまだに出版停止になっておらず、累計2万冊を越えています(後に出版停止)。この本はかなり素養のある人でないと身に付きません。高段者向けです。中国、高段者が多くて普通、というところなのですが、それにしても結構売れています。中国のこういう芸術関係の出版の場合は一般的には4000部でだいたい終了なので、買っておかないと手に入らなくなります。それでも売り切れまでしばらくかかるので市場規模がそれぐらいなのです。そういう環境で2万越えはすごいと思います。重要な本なので印刷され続けているのだと思います。そうすると、重要だと見做している出版社幹部もいるということになってきます。文化人が個人的に学ぶ本になっているのかもしれません。