レコーディングについて - 二胡弦堂

 


 練習のために録音して確認するということはあると思うのですが、録音を販売ということになってくると完全に別問題で非常にハードルが高くなります。演奏の方、選曲とか構成については言うまでもありませんが、さらにスタジオを借りるとかコストの問題であるとか、いろいろ障害があります。CDを作る段階になると、同時に販売も考えないといけません。例えばバーコードの取得といった事柄があります。そうしないとアマゾンで販売もできません。ジャケットのデザインをどうするかとか、初めてだと考えることも多くてびっくりします。1つ1つが大変なことばかりです。だから、すでにCDを出している人というのは、とてもすごい人です。販売規模が大きくなりそうだとレコード会社と契約しますが、その場合は契約先がほとんどの業務をやってくれます。

 そこで販売は基本的に自分のライブ会場以外ではしない、録音も自前でやることで、とりあえずはそれでやっていくという人もいます。一般の流通に乗せても、よほどのことがない限り成功はしないし、それだったら、ライブに来てくれる方々など買ってくれそうなところにだけ出すという方法は理に適っています。そういう方法で収益があれば演奏家にとっても良いし、チケット価格が抑えられれば聴衆にとっても良いということになります。また聴衆はその日に聴いた演奏、別の日に録音したものでも構わないから何か形に残るもので持って帰りたいと考える傾向があるのでCDの販売があるのはサービス面において良いことです。

 裕福であれば、スタジオでやるとか、自前で録音するにしても業務用機材を揃えるなど可能です。しかしいずれも実行できたとしてもそれほど簡単なことではありません。スタジオエンジニアの録音が自分の意図と違うことは多分にあり得るし、自分で機材を持っていても納得する音を作るのは簡単ではありません。これらのやり方が問題あるとか間違っているわけではありません。非常にエネルギーを注ぎ込んでやる分野なので、一朝一夕には作れないということです。それで将来はどうするかわからないにしても当面はこれらの挑戦は避けて手堅く成果を出せないかという方向を模索することもあります。そもそもこういう難しいことを考えたくもないという方も少なくないと思います。だけど録音はしたい、せねばならないという場合があります。

 録音は設備の観点から、スタジオなどの据付と出張時に持ち込める機材の大まかに2種に大別できるのかもしれませんが、もちろんコンセントを繋ぐ据付の機器の方がモバイルよりも安価で高品質です。でもどこにでも持ち込んで録音というわけにはいきません。ポータブルとかフィールドレコーダーといったものを持っていてマイクやスタンドがあれば、ライブで収録ができます。マイクの立て方は決して簡単ではないので少し勉強する必要はあると思いますが、演奏会を毎回収録するだけで結構音源が蓄積できます。CDは必ずスタジオ録音と決めているのであればライブの収録は使えませんが、スタジオ録音で生命感が感じられる演奏を収録するのは難しく、過去の巨匠たちでもライブ録音の方が人気があるという場合も少なくなく、挙句の果てにライブしか収録しないという人までいる程です。稀にその逆もいますが。ライブ録音を嫌う理由としてはオーディエンスのノイズが入るということなどが挙げられますけれど、しかしCDを購入して演奏を聴く側の人で、客席のノイズを気にする人はほとんどいないと思います。専門店でも凄い数のライブ録音が売られている程です。どうしてもスタジオ録音は「製品化」された感じがしますが、ライブは熱気などなど音楽にとってより重要と思える要素が多分に含まれています。それで多少音が悪いことを覚悟した上ではありますが、積極的な理由でライブ録音を求める視聴者は少なくありません。

 しかしライブ録音は全部を通して聴いた時に良い曲と上手くいかなかった曲が混在して、そのため複数の演奏会の録音を継ぎ接ぎして1枚に仕上げるということがあるかもしれません。その場合、どうしても統一感が失われ、オムニバス的な感じになってしまいます。そうすると1つの演奏会で完成されたものを作りたくなりますが、これはやり直しができるスタジオ録音にはない難しさです。どんな作品を作るかにもよりますが、それでも感動できる録音が収録できる可能性は圧倒的にライブの方が高くなります。もし機材に投資する場合はライブ収録用のシステムを考え、自宅での据付のものはすぐには考えない方が良いように思います。普段ライブを採っておらず、改まってスタジオで収録となるとこれで1つ仕事が増えるし、ライブよりも良いものができる可能性はそれほど高くありません。しかしライブで収録したものをそのままCD化するわけではないので、パソコンでのミックス、マスタリングを経ることになりますから、そこでソフトウェアを使わずアウトボードで処理しようとすればインターフェースも必要になるし色々とコストはかかってきます。高音質を追求すれば、二胡1把買うぐらいの資金が必要です。最初はできればソフトウェアモデリングで作業をした方が良いと思いますし、これで十分商品になるものは作れます。定番の基本的なもので作業し、それはフリーでもあるし、少し投資しても良いかもしれませんが特殊なものは特別な理由がない限り避けます。アウトボードはCD販売で黒字になってから考える方が良いでしょう。その頃になるとモデリングで経験を積んでいるので、自分が結局何が欲しいかも見えてくると思います。無駄な失敗した買い物の方が勉強になることも多いのは皮肉ですが・・。手堅い、失敗しない決定しかしない、すごく賢いのであれば、音楽もそういう印象のものができてくるので、それが果たして魅力あるのかということもあります。だけど失敗はリスクを冒して挑戦した結果でありたいものです。失敗が少ないということは挑戦していないという見方もできます。こういう公開された場所でこういうことを言うのもなんですが、人間性として危なさもある程度あった方が芸術家としては魅力はあるでしょう。

 音楽を作る側からすると、なるべく完璧なものを提供したいという心理があるので、ライブ収録は抵抗がありますが、聴く側からするとそういう意識はありません。この辺りの認識を考えるだけで、より良いアルバムを作るのに大きく前進するのではないかと思います。また、そうすることでライブにより真剣に取り組めるという副次的効果も期待できるのではないかとも思います。全ての演奏家がこういう考えを受け入れられるわけではないと思いますし、制作したい芸術のスタイルにもよるので細かく作り込めるスタジオ録音中心の方がおもしろい作品を作る人もいると思いますが、なかなかスタジオ収録に踏み込めない方には、ライブを録り貯めるのは何かを達成するのに1つの回答になりうると思います。特にソロの録音では、スタジオでやる場合、何か一人でコソコソやっている感があるので、それが魅力になりうるし、ライブでは開放感と大勢で何かを作っていくダイナミズムのようなものがありますから、それぞれを違ったコンセプトで取り組むことも可能であろうと思います。何れにしてもライブ収録は有力なオプションです。