二胡古楽器の木材の材質には、どんなものがありますか? - 二胡弦堂

 


上里  ここでは二胡の古楽器に主に使われる材を説明します。現代二胡の材については二胡の木材の材質には、どんなものがありますか?を参照して下さい。

 民国期(1912~49年)の楽器、二胡以外の弦楽器も含めてこの頃の楽器は、高級楽器については楽団用が主で、この高級という意味は今と同じで、すなわち材の価格であり、本黒檀、海南花梨、紫檀などが使われています。所有は経済力のある楽団か、材の産地の楽団などに限られる傾向があり、その他、財閥関係などに振る舞われていたので、北京、天津、上海あたりに集中して見つかる傾向があります。山東から河北南部の人々は、物を大事にする文化があるので、こういうところからも良いものが出ることがあります。

 その後も二胡自体の規格が変わっていきながらも優れた材が使われていましたが、徐々に入手が難しくなってゆき、最近では使われる材も変化しています。ここでは今はあまり使われなくなっていますが古楽器ではかつて使われていた材についてみていきます。

 紅木は全部で33種が認定されています。しかしある材が何々科の何々属といった分類は植物学的には重要かもしれませんが、家具や楽器として見た場合はまた話は別で、重要なのは質ですから分類外のものを使うこともあります。それで楽器制作の観点から適当と思われる水準の材をとりあえず「紅木」とする場合がありますがそれで問題ないということがしばしばありますし、紅木と同質の材を探す努力もされています。古い楽器の場合は国家によって材に基準が設けられているということはなかった筈なので、職人によって選別された材を使うということもあったでしょうし、現在ではとうに枯渇した材が使われているものもあるので近年の知識ではどういう材が使われたものなのかわからない古楽器もあります。

 黄花梨は海南島、広東、広西、雲南で産出し、高級古楽器の多くもこの材を使っています。むしろ古楽器で印度紫檀や本黒檀はかなりレアで、戯劇院で使われていた楽器で見られる傾向があります。黄花梨は現在絶滅が確認されており、古い材が入手できないと二胡を作れない状況です。中でも最高の物は海南島の黄花梨で、漢方薬として使った時には味が濃く、木目は大きな虎紋が出る優れた材ということで珍重されており、今日では黄金より高価です。この材は明代始めに北京の王宮(現北京故宮博物院)の建設で使用され、宮廷家具の材としても用いられたので清代に至ってほとんど枯渇してしまい、清末以降ぐらいから作られ始めた二胡にとって海南花梨のものというのは極めて珍貴です。それゆえ、大陸の黄花梨が使われているものが確認できます。今ではほとんど古楽器でしか入手できません。最後の大陸産黄花梨二胡は弦堂の調査では文革期のものが発見されており、この頃は二胡の規格が現代化されていった時期に相当しますので、現代規格の黄花梨二胡が見つかれば極めて貴重ですし実在もしています。越南(ベトナム)の黄花梨はこれらが枯渇してから市場に出されたもので、これを「黄花梨」と分類するべきなのかについて専門家の間でも意見が分かれています。最近はパプアニューギニア産の材もあります。極めて少量ですが現代でも海南花梨で作られることがあります。弦堂の個人的な見解では黄花梨でなくとも黄壇を使えば同じ音は得られます。しかし黄壇は老紅木として大雑把な分類で供給されており、しかも見出すのは困難です。現代、黄花梨がある程度入手できるなら老紅木として分類されていたであろうと思われるぐらい同系統の音ですし、老紅木こそが二胡の標準的な音であろうと思います。

 本黒檀も黄花梨と同様、幻の材となっています。柿材の芯が黒いものを指しますが、1万本に1本の割合でしか採取できないと言われており、優れたものは見かけることができなくなりました。

 このようにいろいろ種類がありますが、学術上はすべて総称して「紅木」と言います。極めて質の高い紅木には共通する特徴があります。木目を見てその特徴が現れているからと言ってそれが良い楽器かどうかということになるとそれは別問題ですが、ともかく材だけについて言えば特徴によって質を測ることは可能です。指定された紅木以外でも紅木に共通の特徴があればそれは価値があります。尚、二胡市場で「紅木」と呼んでいるものは植物学上の紅木ではないものを総称しているので紛らわしいですが、これは本物の紅木でないとは言え、中には楽器としてかなり質が高く本物の紅木を凌ぐ物さえあるのでランクや価格での安易な判断には注意せねばなりません。


 「金星(jin-xing)」です。この例は印度紫檀ですが他の材でも現れます。金星は完全に金色です。必ず輝く金色です。キラキラしています。他には白や黒もあり、これは金星と言いませんが同様に評価に値する材です。木材の毛細血管が吸い上げる地中の鉱物が煌くのですが鉱物の種類によって色が変わります。土地によってミネラルが変わりますので産地は非常に重要です。赤土、或いは朱泥が広がっている土地はほとんどの場合、金もあります。それがどれぐらいあるかで金山になったり放置されたりします。金星はそういう土地の樹木から出る金そのものです。輝いているので不純物をある程度含有した金です。インド紫檀は伐採が禁止されているので具体的にどのあたりで生育しているのかよくわかりません(チェンナイ郊外の山の中のかなり狭い地域とされています)。しかし密採者が警察に射殺され、向こうの報道では血を流した人が倒れている写真や映像が流されるのですが、その傍らに紫檀の丸太も転がっており、そしてあたり一面は赤土です(金の産出については泥についても参照)。金は元素なので、結局のところ何なのかわからないのですが、それは錫、銅、銀についても同じでいずれも強い浄化抗菌作用があります。銅鍋で料理をするとか、錫器で酒を飲む、欧州貴族の邸宅や教会では銀器で食事されるといった例がありますが、特に金は最高で、古代の王族が金を集めたのはそのためでした。もし、銅の方が優秀な浄化性能を示せば、銅の方が価値があった筈です。古代より宝飾品に金が使われたのは抗菌のためで、それによって神聖さをも表していました。現代でも鍼や歯科、結核の治療などに使われています。浄化能力に関しては金よりも銀の方が優れているという分析もあり、銀の採掘が難しかった古代では金よりも価値があるとされていたこともありました。おそらくこの背景から王族は黄金の衣を身につけ、宗教関係者はそれより上位の銀を表す白衣を身につけていたのかもしれません。しかし銀は磨き続けないと黒くなってしまいます。天然の金には10%程の銀が含まれるし、金山からは銀も銅も産出します。このようなミネラルが木の血管を伝って内部に入ればより細胞組織が安定し硬く締まった材になるので、そのため金星が出ている材は良いものが多いと判断されます。しかしこれが白や黒に劣るとも一概には言えません。金にニッケルが混じると白くなるし、銀の含有量が増えても同様です。金が細かい粒子状になれば黒くなります。鉄やアルミが混じっても色は濃くなります。銅が混じると赤っぽくなり血管が見えにくくなります。ですから見えるものは参考に過ぎず、最終的には材の個体をみて判断するしかありません。


 「水波紋(shui-po-wen)」という水の波のような紋が見られる材も非常に良いものです。写真の例のような非常に細かいものは海南花梨の特徴ですが、非常に細かく滲むように表出するものは他の材でもあります。


 「虎目」が出ています。この虎目という表現は日本のもので中国にはないようです。しかし良材という認識に違いはありません。紋が明瞭に大きく出ているものは非常に良いものです。色合いからもわかりますが黒檀のように凝縮された材です。



 両方共、海南花梨の例ですが、猿の毛のような少しカールした感じの模様を「牛毛紋(niu-mao-wen)」と言います。虎目の例でも出ており、上部には金色も出ているのがわかります。このように複数の特徴が同時に見られることは珍しくありません。一般論でどのように見なされているかわかりませんが、弦堂の個人的な印象では金星より牛毛紋の出ている材の方が良い場合が多い、血管が真っ直ぐよりも曲がりくねっている方が締まっていることが音を聞いて体感的に感じられます。

 尚、これらが全く見られない材であるからといってそれが悪いとも限りません。古楽器にはこのような紋が現れていたものが多かったのですが今はすっかり少なくなりました。古い楽器を見つけたら確認してみて下さい。

 先日、老舗の広東料理屋(いわゆる「ヤムチャ」と呼ばれるセイロで蒸した料理を出す安価な食堂)に行くと、建物だけでなく家具類までとても古いものだったので驚きました。400席からあるというすべての席とテーブルの材は黄花梨(海南材ではないと思われる)でした。こういう風にまだ良材はあちこちに残っているのだと思います。天安門広場南一帯の再開発も解体だけで何年もかかっていて、解体が終わるとあっという間に建設されましたが、古い街というのは使っている木材が貴重ですから、それで何年もかかったのだと思います。