絹弦と相性のいい松脂(ロジン)は何でしょうか? - 二胡弦堂

 


 何でも良いと思います。おそらくそのためか、この題材についてそれほど扱われているところはないと思います。論じる価値はそれほどない、個人の好みで良いと思います。金属弦に対しても松脂を変えて合わせる、といったことも普通はないと思います。無難な選択としては、やはり第一には中国製の松脂になると思います。パッケージが安っぽかったりするので価値が認識されにくいので、馬乾元がつけてきている松脂など「何でこんなものを付けてくるのか」と思われる方もおられると思いますが、使ってから判断して欲しいですね。中国の松脂は音量が大きく、二胡の個性に合わせて練られており、音がまろやかになる傾向があります。

 弦の素材は文革期にスチールに変わりました。松脂はどうでしょうか。文革期以前と以降で中国の松脂は改良されたのでしょうか。古い松脂が見つかることがありますが、特に改良はしていないようです。そうであれば現代の中国製松脂は元は絹弦に合わせて開発されたものということになります。絹弦時代に配合が決められたものだということです。スチール弦は極力、絹弦に似せて作られているように感じられます。本来の弦は絹、これで音色が決まっていたのですから、そこを大きく変えることはできません。ですから、そもそも絹と鉄で分ける必要はないように思えます。

 欧州の弦楽器用のものも使えます。音が鈍い楽器を使う場合は欧州製の方が良いという人もいます。しかし松脂で何とかしようというのはその前に別の問題がある場合が多いと思います。まず中国製の一般的な松脂が合うというのは前提になると思います。楽器を簡単に変えられないとか、やむにやまれぬ事情がある場合は松脂での調整は1つの方法だと思います。

 弦に松脂が付着して指の滑りが悪く気になる場合は、オリーブオイルで拭くのがいいと思います。最高のものは、馬油(ガマ油)とされており、楽器の木部の養生にも使われます。しばらく保管した弦など古いものも、馬油でなじませると使えるようになる場合があります。馬油は、人間の手の脂に近いので、絹弦に対して良いとされています。(絹弦の保管についてですが、10年ぐらい置いておいたものを見たことがありますがあまり問題ありません。しかしかつていろんな工場で生産されていた昔のものは、工場によって質が違うのか、或いは古くなっているためかわかりませんが、油が必要と思うものもありました。現代のものは保管についてあまり考えなくていいと思います。)

 油を使う時は弦だけを拭きます。蛇皮には絶対に塗ってはいけません。弦には弓を重ねて収納した時に松脂が付きやすいので、布を当てて保護することもできます。移動の際は、特に汚れやすいので注意が必要です。このように普段から注意していればあまり問題はないのですが、そうはいっても指が滑りにくくなるとか、弦がベタベタしていたら指を放した時に吸い付いてポンと音がする(フィンガーノイズ)ということはあります。弓毛の当たるところは避けます。ここには、弦にも松脂が付くことによって摩擦が生じて音が出ます。オイルが付くとよくありません。どうしても拭く場合は、オイルを十分乾かせてから弓をあてがって下さい。

 中国の特に老人は、左手で顔を拭い、顔の脂で問題を克服しています。額を弦に擦りつける方もおられ、不潔なようですが問題の解決にはなります。

広西の天然松脂  右の写真は、中国・広西チワン族自治区の天然の松脂です。屋外でかなりの期間放置され風化したものです。通常、松脂はメーカー独自の調合で製造しますが、このような天然状態のものを買う場合もあります。京胡など一部の楽器はデンペン付近にライターで溶かして垂らした松脂を載せたりしますが、そういう奏者が使うものです。二胡奏者には使いにくいものです。

 古くなった松脂は老朽化で使えなくなることが多くあります。天然のようなものは既に長期に風化していますのでこのような問題はありませんが、市販のものはオイルを混ぜて調合していますので酸化すると、ぼろぼろとした細かい塊になっていきます。昔の亜麻仁油だけのオイルペイントが細かい箔辺になって落ちるのと同じと思われます。ダ・ビンチの「最後の晩餐」はかなり早くボロボロになったと言われています。漆喰の上にオイルペイントしたものだったからと思われます。空気に触れている所は酸化が早く粘りが少なくなると思います。ただ、馬毛でつよくこすればその下の層はまだ酸化していないでしょう。長年放置すると、内部まで酸化が進むはずです。

 植物オイルを混ぜるのですが殆どが乾性油ですから、一年ぐらいで表面は硬化するはずです。そうなると松脂は滑るようになります。通常市販の松脂に入っているものは、割れ止め、あるいは引っ掛かりを強くするための物が多く、これらはひまし油やオリーブオイルなど不乾性油ですから固まりにくいのですが、水分を含みやすく、そのための腐食も環境によってあるとのことです。