弦の製作は非常に難しく、洋の東西を問わず秘術的に扱われてきました。中国でも古くから幾つもの工房があり、美しい音の出る、しかも頑丈な弦の製法は企業秘密だったので、その秘術の中には失われていったものもありました。しかし後に方裕庭が復刻に成功し、これが現代絹弦の基礎になっています。ある資料を翻訳しますと以下のように説明されています。
方裕庭(1885~1977年)は、浙江省紹興の出身で、父・方积卿の工房で16歳より弦の製作を開始し、乔国椿に師事して、生涯にわたる弦の製作の歩みを始めました。1919年には、自身の工房を設立し、一般的な琴弦を提供していました。しかし1937年、杭州・回回堂にて、すでに製作技術が失われて久しい太古琴弦を発見し、その弦が持つ素晴らしさに魅了されました。それ以降、この弦の製法の研究を始め、彼が試作した弦を、上海の古琴演奏家・吴景略が試奏すること数百回に及び、5,6年の歳月を経て、ついに弦の製法を極め、すでに遺失した古弦の製法にも精通しました。
方裕庭は、この製法を後の世代に伝えたので、今も尚、最高水準の弦を以て演奏することができます。
弦堂からコメント:試作が数百回というのはすごい数ですね。絹弦は伸びるまで時間がかかり、伸びきった状態でないと評価を下せません。1台の楽器で1つの弦を試すのに、3,4日はかかったと思われます。なぜなら古琴の弦は二胡のものよりはるかに太いからです。信じられないデータです。よほど、研究が楽しかったと思われます。並でない製品にはそれなりの苦労があるということですね。