孫文明作品に使う琴 - 二胡弦堂

 


弾楽を演奏する時の弦の二胡への渡し方  孙文明の作品は特殊な弦の使い方をするものが多いですが、特に弾楽は「千斤を使わない」という大きな特徴があります。そのため開放弦を鳴らすと弦が大きく震え、撥で弾いた時のような音響的な効果が得られます。この効果を利用する方法で、江南絲竹の「三六」から編曲して仕上げています。

 調弦はDAに合わせます。一般の二胡よりも1オクターブ低くなります。二泉胡はDG弦ですが、これを使えばちょうど良いようです。2つの弦は千斤によって集められることはないので、右の写真のように間隔が大きく開いています。孫文明演奏には少々慣れが必要です。指の先を使って弦を押さえるのではなく四胡のように弦を握るような奏法になります。弦を駒へ渡す角度にも注意が必要です。音を確認して調整する必要があります。二泉胡は一般の二胡よりも棹が長く、千斤も使わないわけですから、音程の幅が大きくなって演奏はその分困難になります。千斤を使わない場合の二胡の音響効果は非常に効果的なので、同じような作曲作品がないというのは残念です。音程をDAに合わせなければ二胡でも代用して演奏できます。

 孫文明自身の写真も残っています。写真は19世紀末以降は大判での撮影だったので大きかったのですが、30年代にライカが出て、フィルムサイズも仕上がりも共に小さくなっていきました。アジア圏で写真が出回るようになった頃はカードサイズの大きさがほとんどでした。それは欧米人が家族の写真などをカードケースに入れて持ち歩いていた影響だったのかもしれません。それで「写真とは小さいものだ」という固定観念が育まれた可能性があります。アジア圏ではどこでも骨董街に行くと古い民間人の写真が結構売っていたりしますがどれもカードサイズです。孫文明の写真もオリジナルは同種の小さなものであったと思われ、そのため今日我々がネット上で見る写真も大きなものではありません。しかも不鮮明、そこでデジタル加工で見やすく変えて観察しようと思ってすぐに気がついたのは、胴がまず大きいということです。南方の大胡八角に見えます。蘇州・上海の古楽器で八角は大型ですが、大きさの規格は統一されていません。現代でも南方の低音琴は八角ですが現代では統一された規格があります。昔は我々の概念における中胡ぐらいのものから地面に置かないと演奏できないぐらいの巨大なものまでありました。弦堂所蔵のものは(写真参照)上海豫園近郊(豫園ではない)の骨董街で見出したそれなりに巨大な代物で、隣に比較しているのはこれも弦堂所蔵の前世紀末の満瑞興です。孫文明のものはこれほど大きくはないですが、この種のもので低音系です。おそらくはこういう系統の琴でないと孫文明のあの感じは出ないのでしょう。さらに絹弦も必要と思われます。

 阿炳の場合は無錫の琴だったので、あまりに低い音の楽器では合わなかったことが考えられ、そのため二泉胡なるものが発明されたのだと思われますが、孫文明は少し事情が異なります。かつて二胡は換把などはしませんでしたが、孫文明と劉天華の師・周小梅が第三把位まで使用する奏法と楽器の改良を行いましたので、伝統をそのまま踏襲したものではありませんでした。孫文明を演奏するのに二泉胡はもちろん使える筈ですが、必ずしも中胡その他が使えないとは限らないと思います。しかし現代の低音二胡は低音に徹した作りで、昔とは異なっています。古い製法で作っている馬乾元の中胡は現代のものとはだいぶん違っており、音の重心が結構高いところにあります。このような楽器を見つけないと演奏はしにくいと思います。